5月26日(火曜日)午後6時頃から約60分間,安倍晋三内閣総理大臣は,シャルル・ミシェル欧州理事会議長(H. E. Mr. Charles Michel, President of the European Council)及びウァズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長(H. E. Dr. Ursula von der Leyen, President of the European Commission)との間で,日EU首脳テレビ会議を行いました。
本会議は,昨年12月のEU新指導部の就任後,初めてとなる三者での会談であり,復興に向けた経済対策を含む新型コロナウイルス感染症対策を中心に意見交換を行い,日EU間の連携を確認しました。また,本会議に際し,日EU間で共同報道発表(仮訳(PDF)別ウィンドウで開く/英文(PDF)別ウィンドウで開く)を発出しました。会議の概要は以下のとおりです。
1 新型コロナウイルス感染症対策
(1)三者は,新型コロナウイルス感染症という世界的な挑戦に対し,日本とEUが普遍的価値を共有する戦略的パートナーとして緊密に協力し,一層大きな役割と責任を果たしていくことを確認しました。
(2)新型コロナウイルス・グローバル対応サミット(5月4日)について,EU側から安倍総理の参加及び日本の貢献に対して謝意の表明がありました。これに対し,安倍総理から,このサミット開催に向けたEUのイニシアティブを歓迎するとともに,保健体制が脆弱な途上国への支援並びに医療用品を含む必需品の流通維持及び貿易円滑化の必要性について述べました。
(3)復興に向けた経済対策については,EU側から,欧州は確実な経済回復を果たすため,復興に向けたロードマップに基づき取り組んでいく考えであると述べました。これに対し,安倍総理からは,日本側の経済対策を説明した上で,世界的危機の中で経済社会活動を維持する観点から,安全性・信頼性が高い情報通信インフラを整備・拡充することが一層重要となっており,また,強靱なサプライ・チェーンの構築や海外からの直接投資については,安全保障上の観点からの適切な対応が必要であるとし,日EU間で連携しつつ,5Gやビヨンド5Gの研究開発を含めた経済のデジタル転換の分野等の取組を進めていきたい旨述べました。
(4)国際保健分野については,安倍総理から,先般のWHO総会での決議採択を歓迎し,とりまとめに尽力したEUのリーダーシップに敬意を表しました。三者は,この決議を踏まえ,公平で独立した包括的な検証を実施することが必要であり,将来的な感染症の世界的流行を防ぐ観点から,感染症への対応能力の強化を含め,WHO別ウィンドウで開くを含む関係の国際機関の改革や効率化を実現することが喫緊の課題であるとの認識を共有するとともに,透明性,迅速性,開放性といったルールに基づき,国際協調を続けていくことの重要性を確認しました。
(5)三者は,新型コロナウイルス感染拡大が与える地政学的な影響について議論し,ルールに基づいた国際秩序への支持を強調しました。また,事実に基づいた情報へのアクセスが重要であり,偽情報に対しては,表現の自由や法の支配などの基本的な原則に基づき対応していくという決意を確認しました。
(6)三者は,G7サミットの成功に向けて協力していくことで一致しました。
2 日EU関係
(1)安倍総理は,普遍的な価値を共有するパートナーとして団結した強いEUを支持する旨述べるとともに,日EU・EPA及びSPAにより日EU関係がかつてなく緊密な中で,ミシェル議長及びフォン・デア・ライエン委員長と,新たな日EU関係を築いていくことを楽しみにしていると述べました。また,安倍総理から,新型コロナウイルス危機後の双方の経済回復を確固たるものとするためにもEPAの一層有効な活用が重要である,また,SPAの下で,持続可能な連結性及び質の高いインフラ,地球規模課題への対応などで更なる協力を推進していきたいと述べました。
(2)EU側からは,日EU・EPA及びSPAに基づき日EU関係は極めて緊密であり,EUとして重視しているグリーン・ディールやデジタルを始めとする幅広い分野で協力を更に深化させたいとの発言がありました。
(3)三者は,新型コロナウイルスの感染状況が落ち着き次第,次回の日EU定期首脳協議を開催すべく調整していくことで一致しました。
(日本外務省仮訳)
1. 2020年5月26日、安倍総理とシャルル・ミシェル欧州理事会議長及びウァズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長は、日EU首脳テレビ会議を実施しました。
2. 3首脳は、新型コロナウイルス感染症で犠牲になられた方々に最も深い哀悼の意を表明しました。ウイルスに打ち勝ち、確実な経済復興を果たすため、グローバルな連帯、協力及び効果的な多国間主義が、これまで以上に不可欠であると認識しました。緊密かつ強力な日EU関係を基盤として、国際場裡において、共にグローバルな課題に引き続き取り組んでいくという強い決意を再確認しました。
3. 3首脳は、日本とEUが、新型コロナウイルス感染症の世界的流行を終息させ、生命を守り、社会及び経済的影響を和らげるための努力を惜しまず、民主主義、人権、法の支配、無差別といった原則及び価値を維持し、G7、G20及び国連システム等の様々な国際的な場で、国際協調を促進し、脆弱国及び助けを必要としているコミュニティを支援していくことを確認しました。
4. 将来の感染症の世界的流行を防止するため、現在のグローバルな対応から教訓を得て、準備及び対応能力を強化すること、自由に、透明かつ迅速に情報を共有すること、WHOのような関係国際機関を通じることを含む国際的な対応を改善していくことの重要性を強調しました。 新型コロナウイルス感染症の世界的流行との戦いにおけるWHOによる調整の役割を再確認しました。第73回WHO総会において、最近採択された、WHO事務局長に対して、最も適切な早期に、WHOが調整した新型コロナウイルスへの国際的な保健対応から得られた経験と教訓を検証するための、公平で独立した包括的な検証の段階的な作業を開始することを要請する、決議を歓迎しました。
5. 3首脳は、効果的な抗ウイルス治療薬、診断、治療法及びワクチンが、支払い可能な価格で全ての人が利用可能となるよう、開発及び普及のための国際協調及び持続的な資金へのコミットメントを再確認しました。将来的な新型コロナウイルス感染症ワクチンは、グローバルな公共財となることを要請しました。この観点から、5月4日から開始され、少なくとも75億ユーロの資金集めを目標とした「新型コロナウイルス・グローバル対応サミット」における成功を歓迎しました。安倍総理は、EUのイニシアティブに謝意を表明し、EU首脳は、日本の貢献に謝意を表明しました。3首脳は、6月のGAVI増資会合を成功させるために協働することを含み、資金的格差を埋めていくための努力を継続する決意を確認しました。3首脳は、日本とEUは保健分野の研究協力を加速することを表明し、この観点から、科学技術イノベーション協力の強化に関する意図表明文書(LOI)の署名を歓迎しました。このLOIは、日本のムーンショット型研究開発制度とEUのホライズン・ヨーロッパ・プログラムとの間の協力を含んでいます。
6. 3首脳は、アジェンダ2030、持続可能な開発目標(SDGs)及びパリ協定に沿って、堅実な経済復興とより持続可能で、包括的で強靱な経済の構築を確実とするための決意を強調しました。脱炭素化/グリーン・トランジッション、デジタル変革及び環境と成長の好循環は復興戦略の一部となります。G20財務大臣・中央銀行総裁会議におけるG20行動計画は、世界的流行の間及びその後のグローバル経済を支えるものとして歓迎しました。プライバシー及びセキュリティを確保した上で感染拡大を予防するためのデジタル技術を含むあらゆる関連する政策手段を使用し、協調した方法で一層の支援を行っていく用意があることによって、経済対策を継続的に調整していきます。また、開かれた貿易制度を維持することの重要性を強調しました。日本とEUは、新型コロナウイルス感染症に対処するためにとられる必要な緊急措置が、貿易に対する不必要な障壁又はグローバル・サプライチェーンへの混乱を生じさせないよう、的を絞り、目的に照らし相応かつ透明性があり、一時的で、世界貿易機関(WTO)のルールと整合的となることを確保しつつ、医療用品、農産品、原材料及びその他の物品並びにサービスの国境を越えた流通を促進するために協力していきます。3首脳は、不必要な移動制限と輸出規制を抑制することを要請し、また、グローバル・サプライチェーンをより強靱なものとすることの必要性を強調するとともに、電子商取引のルール作り及び公平な競争条件の促進を通じ、WTOを改革し、強化し、大阪トラックのもと国際的な議論を促進し、データ・セキュリティ及びプライバシーの強化を通じて、安全で安心な越境データ流通を促進する観点から、データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト(DFFT:信頼性のある自由なデータ流通)を一層構築し、現在の経済危機によって一層強調されたデジタル経済の利点を活用するために共に取り組んでいきます。運輸サービスは、グローバル経済の成功要因であり、公衆衛生上の安全が確保されることを前提に、段階的に回復されるべきであることを確認しました。
7. アフリカ及び他の脆弱な地域を含む途上国支援に関して、3首脳は、加盟国を含むEUが新型コロナウイルス感染症の影響に直面しているパートナー国を支援するために、200億ユーロ以上の資金を約束したこと、また、日本が、パートナー国に対し、短期的な支援にとどまらない、途上国の医療保健制度の強化のための中長期的な支援、及び今回の危機がもたらした甚大な経済への影響に対応するための支援を拡充していくと表明したことを相互に歓迎しました。また、IMF、世界銀行等の国際機関による財政支援、 及び最貧国のための債務支払の時限的な猶予を協調的なアプローチで行うというG20及びパリクラブの合意を歓迎し、このイニシアティブの完全な履行を求めました。
8. 3首脳は、新型コロナウイルス感染症の観点から、地政学的な状況についても議論しました。ルールに則った国際秩序を支持するというコミットメントを繰り返し強調し、サイバーセキュリティ、ハイブリッド脅威への対策、テロ対策等の分野での実践的な協力を強化していくことへの期待を表明しました。透明性があり時宜を得た信頼できる事実に裏付けされた情報は、世界的流行への効果的なグローバルな対応に必須であることを確認しました。そのような情報は、グッド・ガバナンスの基礎となり、社会や民主主義の強靱性を強化するものです。3首脳は、表現の自由や法の支配といった共有された原則に従って、偽情報に対応していく決意を確認しました。ウイルス拡大は、地域紛争を激化させ、一般市民の保護をより困難にするおそれがあるとの懸念を共有しました。新型コロナウイルスに関する国連事務総長によるグローバルな停戦の呼びかけを支持し、人道主義の尊重を求めました。
9. 3首脳は、ウクライナ東部、アフガニスタン、北朝鮮、東シナ海・南シナ海、リビア、シリア及びサヘルを含む地域的課題の国際法に基づいた解決に貢献するために連携を強化することで一致しました。
10. 3首脳は、日EUの戦略的パートナーシップへのコミットメントを再確認しました。新型コロナウイルス感染症の影響から復興し、減ることのない他の共通の課題に取り組んでいく上で、重要な役割を果たします。最初の成果に支えられ、日EU・SPA及びEPAを引き続き実施していく決意を表明しました。状況が許すようになる近い将来、定期首脳協議を開催し、連結性、地球環境の問題や課題、気候変動、デジタル変革、研究とイノベーション、保健、エネルギー、自由かつ公正でルールに基づく貿易、安全保障及び防衛、運輸及び都市政策等の分野における日EU協力を進めていくことへの期待を表明しました。こうした分野での準備作業が進められることを確認しました。
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