8月9日から、11月15日までの期間、現在フランス全土ですでに施行されている「衛生パス」の拡大適用が決定した。
7月からすでに見本市、展示会、美術館、文化ホール、遊園地、映画館、スポーツ施設など代人数の入場により感染リスクが高まると予想される施設に入場する際には、このパスの提示義務があったが、8月9日から、このリストにさらにレストラン、カフェ、バーを始めとする飲食施設、病院などの医療機関(通院する場合の患者、同伴者、訪問者が対象、また老人ホームへの訪問の際にもパスの提示が必要になった。
一方、現行の50人以上が集まる場所での提示は適用外になる。
このほか、鉄道、バス、飛行機などの長距離移動手段利用の際にも、衛生パスの提示が必要となり、with コロナの状態で通常生活を送るために、衛生パスの必要性がますます高まってきた。
まず、この衛生パスとは何か、ご説明したいと思う。
衛生パスとは、平たく言ってしまうと、ワクチン接種が完了している、あるいはコロナに感染していないことの証明書で、具体的には以下の3つが認められている。
1.ワクチン接種完了証明:
フランスで認可されている4種類のワクチンの完全接種が完了していることの証明
• ファイザー、モデルナ、アストラゼネカの2回目接種後7日以上経過していること
• Johnson&Johnson ワクチン接種後4週間以上経過していること
• コロナ感染歴があり、ワクチンを一回接種してから7日以上経過していること
2. 48時間未満のPCRまたは抗原検査結果が陰性である証明(検査は秋から有料)、
3. 少なくとも現時点より11日以前かつ6か月未満の間にコロナに感染し、治癒したことを証明するRT-PCRまたは抗原検査の陽性結果(一度感染しているので、再感染のリスクが限られていることを示す)
上記3事項のうち、一つを証明する公式証明書があれば問題ない。
提示方法としては、政府が推奨している携帯アプリ « TousAntiCovi d »にワクチン接種時に渡される証明書をダウンロードし(ダウンロード後、フランス版の衛生パスを、EU版の衛生パスに変換することも可能)提示するか、紙のオリジナル証明書を提示するかの2つの方法がある。
今回の対象となるのは、18歳以上。
ワクチン接種が進むであろう9月以降に12歳から17歳のティーンエイジャーにも適用される予定だ。
今回のフランス憲法院での決定内容で問題になっているのは、レストランなどの飲食施設を利用する際にパスの提示が必要になることだけではなく、病院などで働く看護師などの医療従事者のワクチン接種を義務化したこと、また病院などの医療施設に通院する場合(救急医療は除く)、老人ホームを訪問をする際にも衛生パスの提示が必要になるという点だ。
フランス憲法院がこの拡大適用施行にゴーサインを出したのは、施行4日前の8月5日。
この決定の3週間前から、毎週土曜日に、「アンチ衛生パス」派によるデモが各都市で行われ、こちらの方も日を追って拡大していった。
8月7日、拡大適用決定後初の土曜日、この日はフランス各地で237 000人がデモに参加した。フランス人口の0.35%がデモに参加した計算になる。
このアンチデモに参加した人のプロフィールはBFM Businessによると、以下のとおり様々で特徴的なのが、普通のデモでは参加者としてはあまり見られない子供連れの家族が多いという点である。
• 大半が子供連れの家族
• 黄色いベスト運動参加者が10%
• 参加者の約60%が南ロアール地方からの参加
• 極右、極左からの参加者もいる
このデモのスローガンは「自由」。
ワクチンの接種をするかしないかは、国民一人一人の選択の自由であることを訴えている。
デモ参加者で、インタビューされている人々の意見としては、「ワクチン自体は悪いとは思わないが、自分はしない」、「政府のやり方に賛成できない」、「有効性を信じていない」、「もう少し治験に時間をかけるべき」、「高齢者の接種は賛成だが、自分は健康だから受ける必要がない」、「数年後、数十年後の副作用が心配、特に妊娠に影響が出ないか心配」、「重大な副作用から、あらたな疾病を起こす可能性が否定できない」「重病化する可能性の少ない子供に接種を受けさせる必要はない」など、ワクチン自体を否定する人と、衛生パスの導入を否定する人の2通りがあり、その参加理由はさまざまである。
医療従事者のワクチン接種が義務化することから、拒否することで失職することを危惧する人(基本的には、雇用契約時に衛生パスは条件に入っていないので、解雇されることはない)など、きちんとした情報が伝わっておらず、SNSなどを情報源にして、間違った情報を鵜呑みにして、しなくてよい心配をしている人も多いと識者は語る。
また、通院するために衛生パスを義務付けることによって、治療に来ることが出来なくなる人が出るのではないかという意見もあり、実際すでに予約の取り消しも起こっているという。
このデモに賛成のフランス人は37%である。
興味深いのは極右マリーン・ルペンの支持者のうち、このデモに賛成なのは48%、かたや現大統領エマニュエル・マクロンの支持者の72%は反対、年齢別に見ると65歳以上の有権者の64%は反対で、単にコロナ問題だけではなく、次期大統領選をにらんだ政治的な思惑も入って来ているようである。
また8月はバカンスの月。
やっと長く続いたロックダウンが終わって、この夏のバカンス予約率は例年を上回ることからも、大半のフランス人が、いつも以上に今年の夏のバカンスを待ち望んでいることは確かだ。
一般的なバカンス時期は8月1日から15日で、たいがいは土曜から次の土曜までの1週間単位でバカンス用の宿泊施設は運営されている。
今回のフランス憲法院の決定は金曜日で、その翌日に出発を予定していたワクチン未接種者もいたはずだ。
衛生パスでワクチン接種が有効と認められるまでには、1回目の接種から1カ月以上かかるので、8月5日の決定後に急いで接種しても、今回のバカンスには到底間に合わず、バカンス期間中にレストランやカフェに行くには、48時間前にPCR検査か抗原検査を受け、陰性証明をもらう必要が出てくる。
1週間のバカンスの間、1日1回レストランかカフェに行くとしたら、少なくとも4回検査を受けないといけないことになるが、これではせっかくの待ち望んだバカンスが台無しだ。
2020年12月に1005人を対象に行われたワクチン接種を受けたくない理由に関する調査結果をご紹介しよう。
コロナとワクチンについてまだ十分な見通しがたっていない 31%
副作用がこわい 25%
ワクチンの有効性に確信が持てない 15%
ワクチン開発研究所と保健公的機関を信頼していない 15%
一般的にワクチン接種には反対である 8%
無意見 1%
8月7日現在フランスのワクチン接種完了率は63.5%。
今回のフランス憲法院の決定は、「国民の選択の自由」よりも「国民の健康を守る」ことを優先した決定であったといえる。
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